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骨太の方針2023 ~ 労働市場改革のゆくえ

6月16日に「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」が閣議決定されました。

すでに報道されていますが、今年の「骨太の方針」の特徴は労働市場改革が大きなテーマとなっていることです。
具体的には、「骨太の方針」の第2章第1節で「三位一体の労働市場改革」がテーマとされています。
今回の記事では、その概要を確認したうえで、企業年金への影響を考えてみたいと思います。

「骨太の方針」で述べられている「三位一体の労働市場改革」のポイントを、箇条書にしてみると以下のようになります。

●一人一人が自らのキャリアを選択する時代となってきた中、職務ごとに要求されるスキルを明らかにすることで、労働者が自らの意思でリ・スキリングを行い、職務を選択できる制度に移行していくことが重要
内部労働市場と外部労働市場をシームレスにつなげ、労働者が自らの選択によって労働移動できるようにすることが急務
「リ・スキリングによる能力向上支援」、「個々の企業の実態に応じた職務給の導入」、「成長分野への労働移動の円滑化」という「三位一体の労働市場改革」を行う。
客観性、透明性、公平性が確保される雇用システムへの転換を図ることにより、構造的に賃金が上昇する仕組みを作る。
●在職者への学び直し支援策について、5年以内を目途に、効果を検証しつつ、過半が個人経由での給付が可能となるよう、個人への直接支援を拡充する。
職務給(ジョブ型人事)の日本企業の人材確保の上での目的、人材の配置・育成・評価方法、リ・スキリングの方法、賃金制度、労働条件変更と現行法制・判例との関係などについて事例を整理する。年内に事例集を取りまとめる。
失業給付制度において自己都合の場合の要件を緩和する方向で具体的設計を行う。
自己都合退職の場合の退職金の減額といった労働慣行の見直しに向けた「モデル就業規則」の改正や退職所得課税制度の見直しを行う
●求職・求人に関して官民が有する基礎的情報を加工して集約し、共有して、キャリアコンサルタントが、働く方々のキャリアアップや転職の相談に応じられる体制の整備等に取り組む。

上のポイントだけを見ても、その背景にある問題意識は良く分かりませんね。

実は労働市場改革に関する議論は、「新しい資本主義実現会議」で行われ、5月にはこの会議体で「三位一体の労働市場改革の指針」が決定されています。
「骨太の方針」の労働市場改革に関する記述は、この指針を反映したものになっています。

では、「三位一体の労働市場改革の指針」は、どのような問題意識に基づいているのでしょうか。
指針の「基本的考え方」では、以下のように問題意識を述べています(ポイントを抜粋します)。

●働き方は大きく変化している。「キャリアは会社から与えられるもの」から「一人ひとりが自らのキャリアを選択する」時代となってきた。
職務ごとに要求されるスキルを明らかにすることで、労働者が自分の意思でリ・スキリングを行え、職務を選択できる制度に移行していくことが重要である。
●我が国の賃金水準は、長期にわたり低迷してきた(先進国の1人あたり実質賃金の推移を見ると、1991年から2021年にかけて、米国は1.52倍、英国は1.51倍、フランスとドイツは1.34倍に上昇しているのに対して、日本は1.05倍)。
●GXやDXなどの新たな潮流は、必要とされるスキルや労働需要を大きく変化させる。人生100年時代に入り就労期間が長期化する一方で、様々な産業の勃興・衰退のサイクルが短期間で進む中、誰しもが生涯を通じて新たなスキルの獲得に務める必要がある。
●現実には、働く個人の多くが受け身の姿勢で現在の状況に安住しがちである。
この問題の背景には、年功賃金制などの戦後に形成された雇用システムがある。
職務(ジョブ)やこれに要求されるスキルの基準も不明瞭なため、評価・賃金の客観性と透明性が十分確保されておらず、個人がどう頑張ったら報われるかが分かりにくい。そのため、エンゲージメントが低いことに加え、転職しにくく、転職したとしても給料アップにつながりにくい。
人口減少による労働供給制約の中で、こうしたシステムを変革し、希望する個人が、雇用形態、年齢、性別、障害の有無を問わず、将来の労働市場の状況やその中での働き方の選択肢を把握しながら、生涯を通じて自らの生き方・働き方を選択でき、自らの意思で、企業内での昇任・昇給や企業外への転職による処遇改善、更にはスタートアップ等への労働移動機会の実現のために主体的に学び、報われる社会を作っていく必要がある。

つまり、「骨太の方針」の労働市場改革に関する根っこの問題意識は、「日本的経営の象徴とされる日本型雇用システム(終身雇用、年功賃金制、企業別組合)を変えること」にあると言えます。

その具体策として、雇用保険や退職金における会社都合と自己都合の格差の解消や、長期勤続を優遇する退職金税制の見直しなどが挙げられていることになります。

このような抜本的な改革ですから、実現するためには個人も企業も大きな痛みを伴うことになるでしょう。
また、現在の日本は解雇が非常に難しいため、解雇法制の見直しも不可欠だと思いますす。

実現のための課題は非常に多いので、どこまで改革が実現するかは、今の時点ではまだ判断できません。
今後の動きに注目を続けたいと考えています。