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キャリアアップ助成金(社会保険適用時処遇改善コース)② ~ 適用拡大はなぜ必要か?

社会保険の適用拡大を行う理由について、政府広報オンラインでは以下の3点を挙げています。

(1)被用者でありながら国民年金・国民健康保険加入となっているかたに対して、被用者による支え合いの仕組みである厚生年金保険や健康保険による保障を確保することで、被用者にふさわしい保障を実現すること。

(2)労働者の働き方や企業による雇い方の選択において、社会保険制度における取り扱いによって選択を歪められたり、不公平を生じたりすることがないようにすることなどにより、働き方や雇用の選択を歪めない制度を構築すること。

(3)適用拡大によって厚生年金保険の適用対象となったかたが、定額の基礎年金に加えて報酬比例給付による保障を受けられるようになることなどを通じて、社会保障の機能を強化すること。

公的年金の第1号被保険者は厚生年金には加入せず、「保険料も給付も定額制の国民年金」に加入しています。
もともとは、自営業の方々が第1号被保険者の中心を占めていました。
自営業の方であれば、働こうと思えば年齢に関わらず働けるはずなので、「厚生年金のような65歳開始の年金の必要性は小さい」と考えられますね。

第1号被保険者の就業状況の推移

(出所)令和2年国民年金被保険者実態調査

上の図で分かるように、第1号被保険者の人たちのうち約3割の方々は、パート・アルバイト・臨時として働いています。
この方々は自営業者ではなく、組織に雇われて働いている(被用者)にもかかわらず、厚生年金にも(被用者のための)健康保険にも加入できていません。
国民年金と国民健康保険に加入しています。
つまり、サラリーマンとして働いていながら、老後の保障が国民年金しかないことになります。

報道等で適用拡大に伴うデメリットが強調されることがありますが、それらはサラリーマンの配偶者(第3号被保険者)の問題になります。
上記したように、第1号被保険者の方々にとっては、非常にメリットの大きな制度改正だと言えます。

最後に、「適用拡大は公的年金財政を改善させる」という効果について、簡単に説明します。

上の図は2019年の公的年金財政検証として公表されている資料です。
適用拡大した場合の公的年金の給付水準の変化を、標準的なモデルによる所得代替率を使って表しています。

ここで、「所得代替率」とは、「年金を受け取り始める時点(65歳)における年金額が、現役世代の手取り収入額(ボーナス込み)と比較してどのくらいの割合か」を示すものです。
たとえば、所得代替率50%といった場合は、そのときの現役世代の手取り収入の50%を年金として受け取れるということになります。

また、公的年金財政検証では、将来の出生率・死亡率・経済成長率等について、複数のシナリオを置いています。
上の図の左側に、ケースⅠ・ケースⅢ・ケースⅤとあるのは、それらのシナリオの違いを表しています。

このような影響が出るのは、なぜでしょうか?
その理由は以下の3つになります。

①基礎年金が改善する理由は、国民年金の財政が改善するためです。
現行制度では国民年金の加入者である人が、適用拡大により厚生年金の加入者になります。
その場合、国民年金の加入者数は減少しますが、国民年金の積立金はそのまま残ります。
結果として、国民年金加入者1 人当たりの積立金が増加し、将来の給付水準維持に繋がります。

②基礎年金には1/2 の国庫負担があります。
適用拡大により基礎年金額が増加することで、国庫負担も増加します。

③報酬比例部分だけで見ると、適用拡大を進めると所得代替率は減少します。
この理由としては、「適用拡大により厚生年金加入者数が増加し保険料も増加するため厚生年金財政にはプラスに寄与する。一方で、基礎年金額の増加と厚生年金加入者数の増加により基礎年金拠出金が増加し、それが厚生年金財政にマイナスに寄与する」ためと考えられます。