この10月1日から社会保険の適用拡大が実施されました。
被保険者数(短時間労働者を除く)が51人以上の企業では、従来は社会保険適用の対象ではなかった短時間労働者の方が、新たに社会保険(厚生年金保険、健康保険)の加入対象となります。
対象になる企業の人事・総務の方は、実務面での対応が大変だと思います。
最近お話をする機会のあったある企業の方は、「準備が遅かったので大変です。助成金の検討もしたいけど、今は余裕がありません」とのことでした。
それにしても、この問題は分かり難いですね。
例えば、以下のような点について、すっきりと理解している方は、あまり多くないと思います。
①そもそも適用拡大とは何か?
②なぜ、適用拡大が進められているのか?
③適用拡大に関して「年収の壁」という言葉が使われるが、なぜ壁が複数(106万円の壁、130万円の壁など)あるのか?
④対象になる短時間労働者にとってのメリット・デメリットは?
⑤短時間労働者にとってメリットがあるならば、なぜこれほど大きな問題になっているのか?
⑥国の対策は? 効果は出ているのか?
⑦年収の壁問題に対応した助成金の仕組みや活用法は?
これから何回かに分けて「適用拡大の問題」と「対応する助成金」について、できる限り分かりやすく解説をしてみたいと考えています。
今回は「そもそも適用拡大とは何か?」をテーマとしてみます。
社会保険(厚生年金保険、健康保険)の適用対象となる事業所、加入対象となる従業員については、一定の要件があります。
最近よく使われる「適用拡大」という言葉は、「適用対象となる事業所、加入対象となる従業員についての要件を見なおし、加入対象を拡大させる」という意味で使われています。
特に、報道等で話題になるのは、「加入対象となる従業員の範囲の拡大」についてです。
もともと、社会保険の加入対象となる従業員の要件は、「1週の所定労働時間および1月の所定労働日数が常時雇用者の4分の3以上」というものです。
ここで、常時雇用者とは(パートやアルバイト以外の)通常の正社員という意味です。
正社員の1週の所定労働時間は40時間のことが多いですから、その3/4は30時間以上になります。
また、正社員の1月の所定労働日数が20日である場合は、その3/4は15日になります。
つまり、この例では、「1週30時間以上および1月の所定労働日数が15日以上」の条件で働く人は、パートやアルバイトであっても、社会保険の被保険者となります。
短時間労働者の適用拡大とは、上記の基準では対象となっていない労働者(週の所定労働時間が30時間未満の人)を、新たに社会保険の加入対象とすることです。
この施策は、2016年以降、人数規模の大きい企業から段階的に進められてきており、この10月からは(短時間労働者を除く)従業員数が51人以上100人以下の企業も、新たに対象となりました(下図参照)。
なお、上の図で分かるように、新たに対象となるのは「週の所定労働時間が20時間以上」の人です。
それを下回る人は、今後も加入対象にはなりません。
より正確に言うと、以下の4つの要件を満たす人が対象になります。
次回は、適用拡大がなぜ進められているのか、その理由を考えてみます。
(ご参考)
キャリアアップ助成金(社会保険適用時処遇改善コース)を活用するためには、その前提として「適用拡大に関連する問題点」を正しく理解する必要があります。
また、この助成金の仕組みも非常に分かり難く、理解するのがなかなか大変です。
そこで、お客様のお役にたつよう、適用拡大に関連する問題点・この助成金の仕組みと活用策・活用事例などを整理した資料を作ってみました。
ご関心のある方はご覧になってみてください。