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日本の将来推計人口② ~ 出生率の仮定は楽観的過ぎる

前回は中位仮定の推計結果の概要を確認しました。
しかし、報道等をみると、今回推計で用いた出生率(中位仮定)には批判的意見が表明されています。

例えば、4月27日付の日経新聞で大林編集委員は、以下のように出生率の仮定の妥当性に疑問を示しています。

・新しい中位推計は出生率の長期想定を前回の1.44から1.36に引き下げた。21年の実績値は1.30、22年は05年以来17年ぶりに1.2台に下がったとみられる。推計は23年を1.23と過去最低水準に下がると見込んだうえで、長期的に1.36への回復を想定している。

・推計はコロナ禍がもたらした婚姻数・出生数の落ち込みから立ち直るすがたを描くが、希望的観測を含んでいるのではないか。

・推計は女性の50歳時未婚率(いわゆる生涯未婚率)が足元の15.0%から19.1%に上昇するという仮定をおいている。21年の出生動向基本調査によると、女性の予想ライフコースは「非婚・就業」が過去最高の33%となり、選択肢のなかで最多を占めた。これがストレートに未婚率につながるわけではないが、19%台にとどまるという仮定も希望的観測のようにみえる。

・こうしてみると、長期的な出生率が1.13にまで下落すると想定する低位推計を前提に、これからの日本のあり方を構想するのが理にかなっていよう。

また、この記事に対して学習院大学の鈴木亘教授は、以下のように賛同するコメントをつけています。

・実は、前回(2017年)の将来人口推計以降、現実の出生数は中位推計ではなく、低位推計に沿って下がってきている。これはコロナ禍の話だけではなく、コロナ前からそうである。そう考えると、大林さんの言う、低位推計を基に社会保障やインフラの計画を見直すべきという主張は、実にリアリティを持った提言である。


実際、今回推計の出生率に関する仮定はやや疑問な点があります(下図参照)。

出生率の実績と仮定

(出所)国立社会保障・人口問題研究所HP

推計の際に用いた出生率の長期的な水準は、コロナ禍の前から見られた低下傾向を反映して、前回よりも低い1.36としています 。
しかし、上の図表で分かるように出生率は2015年以降低下傾向にあり、2020年の実績は1.33です。
また、出生数が80万人を割った2021年の出生率は1.3を下回ることが確実視されています。

それにも関わらず、出生率は長期的には1.36まで回復するという仮定を置いていますが、なぜ回復するのでしょうか。

一つの理由は、出生率の分子には「外国籍女性が生んだ日本国籍出生児が含まれている」ということです(分母は日本人女性人口)。
これは厚生労働省による合計特殊出生率の計算方法に従ったものですが、当然ながら日本人女性だけの出生率よりも高い値となっています。

では、日本人女性だけの出生率の仮定はどうかというと、長期的には1.29と仮定されています。
また、その前提である50歳時点の未婚率は「1970 年出生コーホートの15.0%から2005 年出生コーホートの19.1%まで上昇し以後は変わらない」と仮定されています。

つまり、「現時点から35年かけて19.1%まで上昇し、それ以後は変わらない」という仮定を置いています。

私は、今回の将来推計人口の最大のポイントは、この仮定にあると考えています。

日本人の出生率が低下傾向にある理由としては、
①未婚割合の上昇
②既婚女性あたりの出生数の低下
の2つが考えられます。
皆さんはどちらの影響が大きいのか分かりますか?

答えは①です。
統計的に分析をすると「①の未婚割合の上昇が決定的な要因」だと断言できます。

ニッセイ基礎研究所の天野馨南子さんが、1970年から2021年までのデータに基づいて分析したところ、出生数と婚姻数の相関係数は0.93でした。
相関係数が0.93ですから、非常に強い相関関係があると言えます。
すなわち、わが国の少子化の主要因は未婚割合の上昇であると判断できます。
(ニッセイ基礎研究所 天野 馨南子「日本の人口減少を正しく読み解く①」、共済と保険 2023年4月号)

わが国の女性の未婚率は上昇を続けてきました。
下のグラフで分かるように、特に2000年以降は急激に上昇しています。

50歳時の未婚割合の推移

(出所)内閣府 「令和4年版少子化社会対策白書

将来推計人口の仮定では女性の50歳時未婚率は「現時点から35年かけて19.1%まで上昇し、それ以後は変わらない」というものですが、その根拠は示されていません。
上のグラフをみる限り、「今後も緩やかに上昇を続ける」という仮定を置くのが、妥当ではないかと感じます。

実際、若者の結婚する意思は低下しています。
2022年9月9日に国立社会保障・人口問題研究所が公表した「第16回出生動向調査」には、若者の結婚意思に関する調査結果が掲載されています。

未婚者の生涯の結婚意思

(出所)国立社会保障・人口問題研究所「第16回出生動向調査」

ご覧のように「一生結婚するつもりはない」という回答が増加傾向にあり、特に2021年は急増しています。

また、同じ調査では理想とするライフコース、予想ライフコースに関する調査結果も掲載されています(18~34歳の未婚者が調査対象)。

女性の理想・予想のライフコース、男性がパートナーに望むライフコース

(出所)国立社会保障・人口問題研究所「第16回出生動向調査」

上のグラフの「女性の予想ライフコース」をみると、非婚就業コースが33%を占めています。
つまり、18~34歳の独身女性の33%の方が、「自分は今後も結婚せずに仕事を続けるだろう」と予想している訳です。
(この資料が冒頭で紹介した日経の大林編集委員が記事で言及したものです。)

これらの調査を見る限り、今後も未婚率は上昇する可能性が高いと感じますね。

結婚するかどうかは個人の判断ですし、個人の価値観に基づくものです。
社会状況や経済状況の変化により、個人の価値観も影響を受けます。
以前のように「結婚するのが当然だ」という価値観には簡単には戻らないでしょう。

また、政策的にも、今までの少子化対策は「待機児童問題」「育児休暇等の働き方改革」「仕事と育児の両立支援」「出産一時金の増額」等、「未婚者の結婚支援」よりも「既婚者の出産・子育て支援」に焦点をあてたものが多くを占めています。

これらの状況を踏まえると、やはり今回の将来推計人口における出生率の中位仮定は楽観的に過ぎるのではないかと私は考えています。

次回は低位仮定の結果を確認してみます。