4月9日に植田日銀総裁が就任してから約3ヶ月が過ぎましたが、今の時点では大きな政策の見直しは行われていません。
「黒田前日銀総裁の超金融緩和政策には弊害が目立ってきており、新総裁はその一部を見直すのではないか」という予想をする方も多かったのですが、今の時点では何も動きがありません。
私も、マンション等のバブル期なみの価格高騰や過度な円安の要因は、黒田前日銀総裁が実施した超金融緩和政策だと考えていますので、やや期待外れの感を持っています。
「やはり政治家からの圧力などに対抗して、自分の考えを通すのは、学者出身の植田総裁には難しいのだろう」と失望交じりの感想を持っていました。
しかし、先日、「日銀の植田総裁は静かに闘っているかもしれない」という山崎元さんの論考を読んで、少し考えが変わりました。
山崎氏はこの記事で「植田総裁がまったく動かない背景には信念があるはずだ」という趣旨を述べています。
山崎氏の論考のポイントを私なりに解釈したうえで、箇条書にしてみると以下のようになります。
・インフレ目標の2%を超えるような物価上昇があり、これに追随しようとする賃上げがあり、それが3年くらい連続しないと、多くの国民が「物価は2%程度は十分に上がるものだ」と思うようにはならない。
・日本人の物価に対する「ノルム」(規範や慣習)が変わるには、その程度の繰り返しが最低限必要である。
・植田総裁が総裁就任以来まったく動こうとしない姿勢をとっているのは、「ノルム」の変化を見極めようとしているからだ。
・国民の物価に対するノルムを変えようとする大目標に対しては、日銀の個々の政策の手直しなどは「大事の前の小事」である。
・これから、とくに物価上昇率が2%を超えている場合には、財務省の官僚、日銀のOB、学者、多くの経済メディア関係者からの批判が予想される。
・小うるさい彼らからの政策変更催促の相手をしなければならないことを思うと、植田総裁の「待ち」の姿勢にはなかなかの胆力が必要である。
・植田総裁は「腹をくくって闘っている」ように見える。
実際、植田総裁の能力には底知れないところがありますね。
外見や話し方等は地味で、スタンドプレイが目立った黒田前日銀総裁のような派手な言動はしません。
しかし、植田総裁の講演内容や著書を読むと、高い見識がその裏にあることを感じます。
特に、ESG礼賛論を批判した日経での論考は、ESG投資に対し懐疑的な私にとっては、「わが意を得たり」と強く共感を覚える内容です。
さて、そんな底知れない能力の植田総裁ですが、海外でも能力の高さを公の場で見せています。
これも報道されていましたが、欧州中央銀行(ECB)がポルトガルで主催した国際金融会議で、植田総裁は「司会者の鋭い質問にジョークで切り返す」という離れ業を見せました。
日本人でこんなことができる人は、なかなかいませんね。
上でリンクを張ったyoutubeで、実際の様子を見ることができます。
まず、39:10ごろから金融政策の効果が実際に出るまでの期間(lag)について「日本の経験からは最低25年かかりそうだ」と述べ、笑いをとります。
また、最後(1:24:50ごろ)に「中央銀行総裁のストレス」について「こんなに旅行やプレスコンファレンスが多いとは思ってなかった」とまた爆笑を誘います。
それにしても植田さんの英語力はネイティブ並みです。