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教育訓練休暇制度の導入は必要か?

今年の10月1日から雇用保険に教育訓練休暇給付金が新設され、「企業などで働く人がスキルアップのために休暇を取る際に、雇用保険から一定額が支給される」こととなりました。
この制度を使えば会社を辞めずにリスキリング(学び直し)に集中できるほか、休暇中の生活費の心配も減らせます。

教育訓練休暇給付金の概要

(出所)厚生労働省HP

教育訓練休暇給付金を受給できることは、スキル向上を目指す従業員にとってはメリットがあると思います。
今まではスキルアップを目指したくても、長期休暇がなければ会社を退職するしかありませんでした。
それが、この制度を利用することで、退職をせずにスキルアップが可能になり、しかも生活費をまかなうための給付金を受給できます。

ただし、この制度を利用するためには「教育訓練休暇制度が就業規則に規定されている」ことが必要になります。
制度が就業規則で規定されていなければ、そもそも休暇をとることはできません。

経営者の立場で考えると「従業員のスキルアップを支援するために、教育訓練を目的とした休暇制度を設けるかどうか」が検討課題になります。

この問題について過去に何度か中小企業経営者の人と議論したことがありますが、みなさん共通で「この制度を設けることの会社側のメリットは何か?」という疑問をお持ちになりました。
もっとストレートに言うと「この制度を利用してスキルアップした従業員が転職してしまうリスクがあるのでは?」という問題意識です。

実際、わが国では教育訓練休暇制度は普及していません。
厚労省の能力開発基本調査(令和6年度)によると、教育訓練休暇制度を導入している企業は7.5%にすぎません。
導入を予定している企業の割合も9.1%です。
約8割の企業では導入予定もありません。

教育訓練休暇制度の導入状況

(出所)厚生労働省「能力開発基本調査(令和6年度)」より作成

導入に否定的な回答の理由についても調査されていますが、その結果をみると「代替要員の確保が困難であるため」が最も多く、「制度自体を知らなかったため」、「労働者からの制度導入の要望がないため」、「制度導入のメリットを感じないため」が続いています。

この調査結果を踏まえると教育訓練休暇制度がわが国で普及するには、相当の時間がかかりそうです。
経営者の立場では、「あまり制度導入を急がずにしばらくは様子見」であっても問題ないのではと考えます。

また、仮に教育訓練休暇制度を導入する場合は、「会社の承認制」とするなどの「制度導入のデメリットを回避する手段」を盛り込んだ制度設計が不可欠だと考えます。